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福岡高等裁判所 昭和51年(ネ)279号 判決 1978年5月30日

控訴人

井上輝男

右訴訟代理人

佐竹新也

成瀬和敏

被控訴人

右代表者

瀬戸山三男

右指定代理人

武田正彦

外五名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一本件災害、本件定期昇給処分並びに本件レク行事の実施の経緯等(1本件レク行事実施に至る経緯、2本件レク行事参加に際し、職員の自家用車が使用された経緯、3ボーリング競技実施の状況とその終了後、山鹿ボーリングセンターから来民郵便局への移動に当り、右自家用自動車が使用された経緯、4本件災害の発生状況と控訴人の病気休暇)についての当裁判所の事実認定は、原判決九枚目表二行目から同一三枚目表一二行目までの記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二右引用にかかる原審の認定事実によると、本件レク行事は、その主要部分をなすボーリング競技会が第一会場である山鹿ボーリングセンターで行われ、競技終了後その附随行事である競技会入賞者表彰式が、同所から約四キロメートル離れた第二会場である来民局で、懇親会に先立つて約五分間行われる予定であつたものであつて、右入賞者表彰式も本件レク行事の一部を構成していたものというべきである。(もつとも、<証拠>によると、本件災害発生のため第二会場での入賞者表彰式並びにその後の懇親会は行なわれなかつたことが認められる。)

そうすると、本件レク行事はボーリング競技会の終了をもつては未だ完了していなかつたものであつて、ただ後刻第二会場の来民局における表彰式の開催に至るまでの間、一時中断していたものということができる。

(なお控訴人は、当審において新たに「表彰式の式典の一内容として来民局長による逓信記念日訓辞が予定されていた」旨主張しているので検討するに、<証拠>に対比するといずれもにわかに採用できないものであり、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。)

三そこで、本件災害をもつて公務上の災害と認定すべきか否かについて判断する。

そもそも、所属官署の長が法律、通達等の命ずるところに従つて組織的、計画的に実施するレクリエーシヨン行事に、職員が参加する行為は本来の公務ということはできないけれども、右レクリエーシヨン行事は職員の健全な文化、教養、体育等の活動を通じて、その元気を回復し、及び相互の緊密度を高め、並びに勤務能率の発揮及び増進に資することを目的として行われるものであり、職員の研修等とともに公務達成の手段となるのであつて、職員のレクリエーシヨン行事参加中は、右目的遂行のため所属官署の長の強い支配管理が及ぶ場合が多いものであるから、行事参加中に発生した職員の災害については、原則として公務と相当因果関係があるものとして、公務上の災害と認定するのを相当と解すべきである。

しかしながら、本件災害は、控訴人が第一会場でのボーリング競技会終了後、第二会場での入賞者表彰式及びその後の懇親会に参加するため来民局へ向け自己の自家用自動車を運転走行中、来民局先田道上で対向車との衝突により発生した交通事故によるものであるから、本件レク行事の中断中に発生した災害であり、右運転行為に来民局長の支配管理が及んでいたものとはいえないのであつて、本件災害は本件レク行事参加中の災害ということはできない。

もつとも、来民局長は山鹿ボーリングセンターにおけるボーリング競技会終了後参加者全員に対し入賞者表彰式と懇親会のため第二会場である来民局へ急いで帰局するようにとの発言をしたものであるが、本来の公務そのものではなく、また参加を強制できないレクリエーシヨン行事の性格からして、右発言はそもそも職務命令に親しまないものであるから、これをもつて控訴人主張のように国家公務員法九八条一項、郵政省就業規則五条二項に基づき発せられた帰局命令と解することはとうていできない。

(現にボーリング競技会参加者二〇名中四名の者が来民局に行かず山鹿市内で自由行動をとり食事をしたうえ帰宅しているが、これが職務違反に問われるものではないことは当然である。)

又、参加者の来民局への移動に当つては、その交通手段につき来民局長は特に指示をすることはなく、また打合せもなされていなかつたが、前記認定の事実からすると、同局長は参加者が八台の自家用自動車に適宜分乗して山鹿ボーリングセンターに集合したのと同様に、再び適宜自家用自動車に分乗して来民局へ移動することを当然予期して前記発言をしたことがうかがわれる。しかし、このことをもつてしても、控訴人が自己の自家用自動車を運転して来民局に移動する過程において来民局長の支配管理のもとにあつたということは困難である。

以上の次第であつて、本件災害は、公務と相当因果関係があるとはいえないから、これをもつて、公務上の災害と認定することができないものといわねばならない。

四そうすると、本件災害が公務上の災害であることを前提とする控訴人の本訴請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく、失当として棄却を免れない。<以下、省略>

(佐藤秀 篠原曜彦 森林稔)

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